最高裁判所第二小法廷 昭和25年(れ)1711号 判決 1951年4月13日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人岡崎源一上告趣意第一点について。
原判決挙示の証拠(所論原判決判示中の第一審第十一回公判調書とあるのは、富山地方裁判所魚津支部における第二回公判調書の誤記と認むべきことは記録に徴し寔に明らかである)によっては、本件犯行の時を必ずしも判示の如く昭和二三年九月三〇日頃と明認し難いこと、所論のとおりである。(即ち原判決挙示の証拠である、証人三浦宏修の供述記載によれば八月初旬と認むるを相当とする。)しかし、犯罪の時は罪となるべき事実に属するものではないから、この点について判決理由と証拠との間に多少のくいちがいがあっても、これがためにその判決を違法として破棄するに足りない。それ故論旨は理由がない。
同第二点について。
簡易裁判所がその事物管轄に属する罪名により起訴せられた事件につき、審理の中途において裁判所法三三条三項の場合に当るものと認めて事件を管轄地方裁判所に移送し、同地方裁判所は審理の上その事件を簡易裁判所の事物管轄に属しない罪名により処断すべきものと認めた場合にも、右移送前に既にした簡易裁判所の訴訟手続はその効力を失うものでないことは、旧刑訴法一二条の規定によって明らかである。記録によれば、本件は窃盗被告事件として魚津簡易裁判所に起訴せられ、同裁判所は審理の中途において裁判所法三三条三項の場合に当るものと認め、よって事件を富山地方裁判所魚津支部に移送し、同支部は審理の結果本件を横領罪により処断したものであること明らかである。この場合において、右移送前の公判手続により作成された魚津簡易裁判所の公判調書はその効力を失うべきものでないことは前説明のとおりであるから、原審が適法な証拠調の手続により、所論魚津簡易裁判所の公判調書(即ち同調書中の証人久保芳松の供述記載)を判決の証拠に採用したことにつき何等の違法は存しないのである。また、所論司法警察官の聽取書については、原審において適法な証拠調手続がなされていること記録上明らかであるから、これを採証に供した原判決にまた何等の違法はないのである。それ故論旨は何れも採用することができない。
よって刑訴施行法二条旧刑訴法四四六条に従い、裁判官全員一致の意見によって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)